和歌と俳句

明日香

奈良県高市郡明日香村、香具山の南、飛鳥川の東の山に囲まれた地域。

志貴皇子
采女の袖吹きかへす明日香風都を遠みいたづらに吹く

元明天皇御製
飛ぶ鳥明日香の里を置きて去なば君があたりは見えずかもあらむ

長屋王
我が背子が古家の里の明日香には千鳥鳴くなり妻待ちかねて


良経
とぶとりの飛鳥の里のほととぎす昔のこゑに猶や鳴くらむ

定家
冬はただあすかの里の旅枕おきてやいなん秋の白露

雅経
かすみゆく 春はくもぢを とぶとりの 飛鳥の里に 雁かへるらし

定家
村雲やかぜにまかせて飛ぶ鳥のあすかの里はうちしぐれつつ


赤彦
明日香路をか行きかく行き心親し古人をあひ見る如し

赤彦
天なるや月日も古りぬ飛ぶ鳥の明日香の岡に立ちて思ふも

草城
稲刈つて飛鳥の道のさびしさよ

茂吉
飛鳥なる ひと夜のやどり 夜くだちて 月照りたるを 見てゐる吾は

茂吉
ひとつ蚊帳に ねむりしことも 現なる 飛鳥の里の 朝あけにけり

茂吉
とぶ鳥の 明日香の里に 汗たりて きのふも今日も いにしへおもほゆ

楸邨
飛鳥村秋風に猫を見たりしのみ

素逝
飛鳥路のはしづかに土塀の日

楸邨
飛鳥仏青き蝗が膝をあるく

秋櫻子
稲の香にむせぶ佛の野に立てり

秋櫻子
木の実降り鵯鳴き天平観世音

秋櫻子
唐辛子干して道塞く飛鳥びと

秋櫻子
うまし国大和の秋に鬼の跡

爽雨
ひばり落つ御陵に飛鳥めぐり終ふ

青畝
玄室にのいかる飛鳥かな

岡寺

草城
岡寺の高きに灯る冬の山

草城
岡寺の大きなを買ひにけり

茂吉
岡寺の 楼門のもとに 三人等は 時を惜しみて 相居たるかな

茂吉
いにしへの ひじりみかども あはれあはれ このみ仏に 近寄りたまひきや

秋櫻子
岡寺の霞ふかきを見て登る

橘寺

青邨
山門は開く刈田を遠く見て

草城
架稲も橘寺も暮れにけり

茂吉
橘の み寺をここに ふりさけて 友の教ふる 事は遥けし

秋櫻子
丘飛ぶは橘寺のかも

石舞台古墳

青邨
秋風や旅人のせて石舞台

青邨
はるかより刈田たゝめる石舞台

秋櫻子
野に巨き石ゆゑも越えなやむ

秋櫻子
草萌えてわづか染めける石の裾

秋櫻子
飛び日は暈着たり石舞台