和歌と俳句

山口青邨

一宿の富士の裾野の夜は寒し

羽織の紐結ばずそぞろ秋深し

秋時雨白き柱に鶴舞ひて

秋の日の落つる陽明門は鎖さず

わが髪をぬらす黒髪山時雨

羊たち秋落日に尻をむけ

この庭の松に秋天の城をおく

流星の針のこぼるるごとくにも

十六夜の雲深ければ五位わたる

銀婚の妻のみちべに濃竜胆

わがこころの穂波にただよへり

一尺の北見の稲の稲架づくり

わが庭の凛々をほこらんか

菊あつく着たり義経菊人形

曽我の森何かきびしく紅葉せり

みちのくの八戸の菊いまぞ摘む

七面鳥千羽はばたき秋の風

南部富士白き雲かけそばの花

みちのくの客に夜寒の床のべて

北上にかかる大橋林檎売

広瀬川胡桃流るる頃に来ぬ

湖たひら刈田たひらに烏とび

磐梯の麓萱刈る一ら見ゆ

石手寺の築地くづれて稲の波

秋風にライトブリユーの帆は三崎

秋風や旅人のせて石舞台

はるかより刈田たゝめる石舞台

山門は開く刈田を遠く見て

九体寺の道に入るよりを売る

おんうるはし換へたまはずや宝珠と柿