和歌と俳句

山口青邨

遠くより見て近づきぬ櫨紅葉

一本の矢竹にからむ零余子かな

萩扱いて行く旅人の後をゆく

見上げたる金木犀の大樹かな

やがてまた木犀の香に遠ざかる

萩も伏し虎杖も伏し雨の中

硝子戸にうつる月見の団子かな

北上の渡頭に立てば秋の声

山里や豆腐屋一軒新豆腐

八朔や餅を搗いたり豆煮たり

縁側にあることもあり一葉かな

両岸の鯊釣る中の舟路かな

松遠く里曲ありけり鯊日和

芦の花咲けばさびしき浦住居

浦安の町くらけれど祭の灯

せゝらぎのほとりに咲けるもよし

観菊に召さるゝ妻の裾模様

笹原に秋風吹いて過ぐるのみ

石の上に夏帽いざり秋の風

日出でゝ那須野ケ原は霧の海

吹かれゐる山虎杖の花みどり

笹原やさびたの花の白く咲く

雲海の上に月あり盆の月

月さして障子の裾の明るけれ

莨干す那須野ヶ原の一軒家