遠くより見て近づきぬ櫨紅葉
一本の矢竹にからむ零余子かな
萩扱いて行く旅人の後をゆく
見上げたる金木犀の大樹かな
やがてまた木犀の香に遠ざかる
萩も伏し虎杖も伏し雨の中
硝子戸にうつる月見の団子かな
北上の渡頭に立てば秋の声
山里や豆腐屋一軒新豆腐
八朔や餅を搗いたり豆煮たり
縁側にあることもあり一葉かな
両岸の鯊釣る中の舟路かな
松遠く里曲ありけり鯊日和
芦の花咲けばさびしき浦住居
浦安の町くらけれど祭の灯
せゝらぎのほとりに咲ける菊もよし
観菊に召さるゝ妻の裾模様
笹原に秋風吹いて過ぐるのみ
石の上に夏帽いざり秋の風
日出でゝ那須野ケ原は霧の海
吹かれゐる山虎杖の花みどり
笹原やさびたの花の白く咲く
雲海の上に月あり盆の月
月さして障子の裾の明るけれ
莨干す那須野ヶ原の一軒家