和歌と俳句

山口青邨

葛の花こぼれて石にとどまれり

大江山降り出す雨に桔梗濃し

美しき稲妻したり与謝の海

秋扇白し露草むらさきに

鯊釣れず水にある日のうつくしく

小坪の灯葉山の灯とて月を待つ

やがて帰る燕に妻のやさしさよ

今宵閑帰る燕に餞すべし

つばくろの帰れば羽織欲しと思ふ

芋虫の太りにけりな露の宿

肩はりて罎見ゆ糸瓜の水取ると

たまりたる糸瓜の水に月させり

みちのくの如く寒しや十三夜

人人を待つ吾れ人を待つ秋の暮

海底のごとくうつくし末枯るる

ここに立つ受難キリスト葡萄

アスマンのワインを醸す葡萄摘む

葡萄摘始まり桶ころがして行く

青林檎つぶらにみのる潮風に

虚子句集置く極北の秋草

いくさ来むただにしづかや秋も更け

わが髪の紅くなりゆくふたとせ