手炉を撫づ火の無きごとく有るごとく
奈良墨の練りをいのちに老いにけり
雪の小田びろうどびかりさしにけり
反故を食みひもじがりをり春の鹿
火を放つ人と三瓶の野に語る
西の旅朝な朝なの新和布
杣着にて禅師のおはす日永かな
雲水の嚢中落花二三片
蚊のなかにおはすがごとし閻魔王
早乙女を中に畦ゆく村の者
ほのぼのと英彦の夜畦や時鳥
国東の佛ぞくらき蛍かな
玄室に蛍のいかる飛鳥かな
雨多き火の国なりし蛍かな
御来迎雲逡巡といろづき来
釣橋やこたび帰省の子に躍る
沙平ら天龍川の灼けつくす
高嶺の日しづむに間あり避暑の町
遍照に八つの峰や盆の月
うそぶきし野分ののちのケルンかな
吾亦紅はづみて霧のしづまらず
とのゐして伊勢に昂ぶる虫聞かむ
能登島は雨に見えざる芒かな
家持の心になれば雁高し
鬼蓮は破れも見せず秋の雨