雪代と潟と紛ひて旅淋し
猫かずかず雑草園の月に逢ひ
お火焚に逆立つ狐灯りけり
寒明けば七十の賀が走り寄る
賀の梅の白からむとし雪に触る
菖蒲の芽鞘あてしたる風の見ゆ
闇おぼろゆけば行かれて滝の道
日除舟水天宮へ棹しにけり
涼しさや鑿のするどき雉子車
青嵐朴なぶられてをりにけり
蛇籠の目ふかく落ちたる蛍かな
はまゆふは真夜の灯台にほはしむ
潮流を変へたる岬浜おもと
昼顔やテベレの水の日を反す
人獣くはしく彫りし泉かな
噴水に神話の男女あそびけり
戸の鈴にスイスの音よ露の宿
立秋やレマン湖上の老旅人
オベリスク雁わたるべく暮れにけり
壺湯の湯色変りたる夜長かな
馬肥えてベスビオ怒り忘じけり
秋風やサン・ドニの手に己が首
野明りの消ゆれば遠し翁の忌
笹山のさむさがわかる時雨かな
一位の実冬青空に触れにけり
甘酒の箸は一本もがり笛
グラタンの熱しと食ぶる冬至かな
着ぶくれて俳句の鬼と任じけり