和歌と俳句

夜長

晶子
夜の長し脚をとられしきりぎりす閻魔こほろぎおかまこほろぎ

そら耳にきこゆる猫の鈴夜長 万太郎

長き夜や坂下り際の月あかり 万太郎

長き夜や舞台のかげの幕だまり 万太郎

松茸を焼く香いとしき夜長かな 万太郎

長き夜の月欠けてあり市原野 播水

雨もりもしづごころなる夜長かな 青畝

夜長星窓うつりしてきらびやか 不器男

夜長なる呆け瞼の眉の影 たかし

おもむろに助炭下ろして夜長し 虚子

レコードのちらりとかへす夜長の灯 草城

長き夜の椅子むきむきに楽を聴く 草城

長き夜や珈琲の湯気なくなりぬ 草城

もの書ける禰宜の夜長を垣間見し たかし

なぐさめの人来ずなりし夜長かな 月二郎

夜長澄む子の眼にあはれ母眠く 汀女

我命つづく限りの夜長かな 虚子

大天明くる夜長も永久の時のうち 石鼎

月たかだか富士のまそらも夜ながにて 石鼎

半を打つ時鐘一点荘夜長 風生

吾が胃吾が手に触れよりの夜長かな しづの女

三方の夜長の壁に地図を張る 汀女

長き夜を腹を立てつゝわらひつゝ 万太郎

夜長し四十路かすかなすわりだこ 草田男

長き夜の柱につるす狐面 占魚

よく閉めて雨の夜長と灯の夜長 素逝

いちまいの壁の夜長のあるがまま 素逝

長き夜の影と坐りてもの縫へる 素逝

ふりむきし顔の夜長の灯くらがり 素逝

下げし灯に夜長の襖しまりたる 素逝

部屋のもの夜長の影をひとつづつ 素逝

ひとごゑをへだつ夜長の襖かな 素逝

めいめいの影の夜長のおのがじし 素逝

夜長さの障子の桟の影とあり 素逝

長き夜の影のあつまる部屋の隅 素逝

ふりむいておのが夜長の影の壁 素逝