鶏頭のほとほと暮れてまだ暮るる
鶏頭のおのづからなる立並び
刀豆の棚の中にも葉鶏頭
人形なき廊下の菊に憩ひけり
芭蕉葉の雨音の又かはりけり
肱のせて窓に人ある芭蕉かな
暮れてゐるおのれ一人か破蓮
木犀に朝の蔀を上げにけり
後の月庭の山より上りけり
夜の芝生歩けば露のはじき飛ぶ
蚊屋の中に見てゐる秋や今朝の秋
厩ある姥子の宿の秋の暮
芋の露姥子の宿ははや寝たり
月待つや指さし入るる温泉の流
雲近く通る姥子の月を見たり
大富士の現れゐるや望の宿
高原の薄みじかき良夜かな
山畑に霧一抹の良夜かな
山に彳ち山山見つる良夜かな
山山を統べて富士見る良夜かな
十五夜の遅き温泉壺に宿の者
杉戸閉ぢ蔀戸下りて野分かな
大木のもまれ疲れし野分かな
もの書ける禰宜の夜長を垣間見し