漁夫は沖女房子が来る地蔵盆
木魚居る畳に坐り夜学かな
露の戸に紫苑鋭く咲き揃ふ
國境の高嶺競へる良夜かな
甲斐駒の首尾彷彿と露の空
常念嶽の常居る軒の紅葉晴
軒紅葉遠紅葉して槍穂高
楠多き中にも巨樹の露しぐれ
十六夜の琴の浦波ささやかず
十六夜の梨地の海に打瀬舟
伐木の乱るる岨の花芒
木を荷ふ荒き仕事に薄もみぢ
桂よりはじまりゐるや谷紅葉
秋水の白瀬青淵まさやかに
大網を橋より打つや秋日和
秋晴の舟より投網橋よりも
秋潮の暗きに紅き海月棲む
入海の更に入江の里の秋
秋潮の入江の辻に舟かかる
露けさや煙草売る家の軒荵
縁起読み神の誓ひの芒結ふ
結縁の芒結ぶや人遠し
佛背の石の古井の水も秋