十棹とはあらぬ渡しや水の秋
踊見る踊疲れを憩ひつつ
うつし世の月を真上の踊かな
秋晴や歩きゆるめつ園に入る
秋水のおのづからなる水輪かな
鈴虫は鳴きやすむなり虫時雨
秋晴に虫すだくなる谷間かな
秋晴や黄色き花の糸瓜垣
雨音のかむさりにけり蟲の宿
渡鳥仰ぎ仰いでよろめきぬ
蟲時雨銀河いよいよ撓んだり
大木にしてみんなみに片紅葉
鶺鴒の歩き出て来る菊日和
露草の拝めるごとき蕾かな
曼珠沙華恙なかりし門を出づ
我去れば鶏頭も去りゆきにけり
秋晴れの何処かに杖を忘れけり
薄紅葉せる木立あり歩み入る
雲去れば月の歩みのゆるみつつ
月光の走れる杖を運びけり
コスモスの夕やさしく物語
鶏頭の首を垂れて枯れんとす
庭山の朴の木立や後の月