番町の銀杏の残暑わすれめや
露の夜の空のしらみて来りけり
萩にふり芒にそゝぐ雨とこそ
花すゝき汗をふきつゝ連れの来る
八月の夜の雲池にうつりけり
はつ秋の風起りけり垣の外
かなかなのいまゝで鳴いてゐたりしが
あさがほにしまひおくれし葭戸かな
名月や電話のベルのなりつゞけ
青空へさんまの焼ける煙濃く
さんまのあぶら涙の如くわきにけり
秋かぜの回覧板を廻し来る
勝手口あきかぜ好きにかよひけり
秋風や柳川鍋の赤き蓋
秋風やはなせばながきことながら
菊人形目張りいさゝか濃かりけり
うづくまつたる軍兵も菊人形
朝寒や障子の桟の山の灰
朝寒やはるかに崖の下の波
柿剥いて来てくるゝさへ夜寒かな
洗ひたる障子を立てゝ風情とす
十六夜や四谷見附のみさごずし
舟虫の畳をはしる野分かな
長き夜を腹を立てつゝわらひつゝ
十五夜の草くるぼしを没しけり
名月のたかだかふけてしまひけり