和歌と俳句

久保田万太郎

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

あかつきの雨ふるなかや鶏頭花

あきかぜのふきぬけゆくや人の中

きゝなすや汐の遠音を秋かぜと

秋風や目かくし高き塀のうち

高き木のそよぎみゆるや秋の雨

白菊に夕影ふくみそめしかな

菊市やつれだつなかの娘分

とりとめしいのちなりかし菊供養

ふところにみ籤の吉や菊供養

後の月塀に落ちたるひかりかな

公園のいさゝ流れや暮の秋

迎火をたきて夕餉としたりけり

木がくれになりし遠さや盆の月

ひぐらしのなきて元禄屋敷かな

うきくさの水の全く残暑かな

月の縁籠でうちんをともしをり

コスモスに烟るが如し月あかり

よのつねの縁でありけり秋の暮

朝寒のたまたま鵙の高音かな

盆の月柱に照つてゐたりけり

花火あがるなり煮びたしの鮎に箸

すすき淋し傘さすほどの雨となり

秋晴るゝものにふるさと遠きかな

みえてゐる瀧のきこえず秋の暮

うれひなし汝が剥くのいと赤く