おもひでのかなしき燈籠ともしけれ
花火あぐこの恋ばかり消さじとて
ひぐらしや煮ものがはりの鰌鍋
ひぐらしに雨戸なき夜の明け放れ
いなづまのやうやくよわく淋しさよ
朝顔を平賀源内咲かせ候
朝顔やあはれ咲きたる濃紫
梨むいてゐるとき淋し月の人
卓上の梨もぶだうも無月かな
月の雨さくら餅屋の閉めてあり
近みちの土手を下りるや月の雨
日本橋浜町生れ鯊の汐
死ぬものも生きのこるものも秋の風
帽子すこし曲げかぶるくせ秋の風
一室の燈火溢れ秋の雨
梨剥いてやりながら子に何いへる
子煩悩なりしかずかず野菊かな
秋しぐれ冷たき風のそへるかな
町を行く町につくつく法師鳴き
また九月一日来る秋の蝉
大溝の名残こゝにも蓼の花
波の音をりをりひゞき震災忌
かまくらの月のひかりや震災忌
藪つ蚊の来てまださすや曼珠沙華
曼珠沙華露に潰えてしまひけり
襤褸袷赤大名の曼珠沙華