和歌と俳句

高浜虚子

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温泉の宿や鳴きて飯となる

朝出して闇の芭蕉に對しけり

鶏を吹きほそめたる野分かな

遅月の上りて暇申しけり

山間のの小村に人と成る

顔よせて人話し居る夜霧かな

くはれもす八雲旧居の秋の蚊に

秋風や浜坂砂丘少しゆく

秋雨に濡れてかわける砂丘かな

どこまでも転げゆく砂丘かな

打よする波をふまへて鰯曳く

菱採りしあとの菱の葉うらがへり

秋風の急に寒しや分けの茶屋

目の下に竹田村あり茸狩

鶺鴒のとどまり難く走りけり

大小の木の実を人にたとへたり

いたみ頬やけ阿弥陀に供へあり

いちじくをもぐ手に傳ふ雨雫

刈萩をそろへて老の一休み

そこはかと刈田出来行く広野かな

軒竝に焚く送り火や宿とらん

おもむろに助炭下ろして夜長し

野付牛出でてほつほつありぬ

なだらかなの丘なり汽車登る

露の原朝日よろこび躍るなり

山の温泉に病める子を見舞ふ

どこやらに花火の上る良夜かな

清なる白浪見えて良夜かな

を作り煙草をつくる那須野かな

芋畑に鍬をかついで現れし

皆降りて北見富士見る旅の秋

帽取つて仰げばとはに霧雨が

石狩の水上にして水澄まず

十人は淋しからずよ秋の暮

稲筵天塩の山も見ゆるかな

燈台は低く霧笛は峙てり

夜もすがら霧の港の人ゆきき

霧の町玉蜀黍をやく火あり

秋の蝶黄色が白にさめけらし

鰯焚く漁村つづきや秋の濱

竹切れに絲をつくれば鯊の竿

秋天や羽山の端山雲少し

秋山の美幌に越ゆる道見

秋風やポプラの上の駒ヶ嶽

秋風や秣の山の果もなく

高原の山皆低し秋の風

手を上げし人にこぼるる四十雀

鶺鴒が枝垂桜にとまりたる

顔抱いて犬が寝てをり菊の宿

空に雲薄く流るる菊日和

もぎかけし柚子を忘れて棹のあり

此頃は柚子を仏に奉る