無花果や垣は野分に打倒れ 史邦
無花果に愚なる鴉来りけり 虚子
無花果や竿に草紙を縁の先 漱石
無花果の岸へ着きたる渡舟かな 泊雲
無花果の裂けていよいよ天気かな 石鼎
手がとどくいちじくのうれざま 山頭火
いちじくのまことしやかに一葉かな 虚子
無花果や雨餘の泉に落ちず熟る 蛇笏
無花果の背戸もきれひに掃いてあり 風生
無花果の初なりくうて話かな 石鼎
いちじくをもぐ手に傳ふ雨雫 虚子
乳牛に無花果熟るる日南かな 蛇笏
葉にのせて無花果呉れぬ二つ三つ 淡路女
無花果を頒ちて食ぶる子等がゐて 誓子
無花果を食うべて老のいのち延ぶ 誓子
無花果を流れの上に熟せしむ 誓子
いちじくのけふの実二つたべにけり 草城
茂吉
いちじゆくの 實を二つばかり もぎ来り 明治の代の ごとく食みたり
いちじくや才色共に身にとほく 鷹女
無花果をもぐに一糸を纏はざる 鷹女
無花果を提げて三十年の友 草城
無花果をむくや病者の相対し 三鬼
いちゞくの熟れしを日曜日とせり 綾子
いちゞくの家へ急ぐに雨降り来 綾子
生きてゐること小さくていちゞく食ふ 綾子
無花果四五まんまと熟す四五人に 耕衣
木の無花果食うや天雷遠き間に 三鬼
無花果や川魚料理ただの家 汀女
枝葉に通ふ香の無花果を食べて自愛 草田男
無花果に日輪青き兒の戯び 蛇笏
一個の無花果や心を海にせん 耕衣
無花果に田舟舫へり歌枕 風生
無花果を盛る老妻を一廻り 耕衣