和歌と俳句

西東三鬼

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寒明けぬ牲の若者焼く煙

独りゆけば寒し春星あざむきし

病者等に雀みのらし四月の木

爪とぐ猫幹ひえびえと咲く

雲黒し土くれつかみ鳴く雲雀

クローバに青年ならぬ寝型残す

見えぬ雲雀光る精魂まきちらす

鉢巻が日本の帽子熟れたり

燕の子眠し食いたし雷起る

若者の汗が肥料やキャベツ巻く

見事なる蚤の飛躍わが家にあり

葱坊主はじけてつよし雲下がる

栗の花呼び合い犬は犬呼ぶ夜

排泄が牛の休息泥田照る

田を植える大股びらき雲の下

南瓜の花破りて雷の逃ぐる音

梅雨明り黒く重たき鴉来る

という字生きて群がるパンの屑

鉄板に息やはらかき青蛙

夜のの大き眼玉にわれ一人

やわらかき生れきて岩つかむ

暗く暑く大群集と花火待つ

群集のためよろよろと花火昇る

貧しき通夜アイスキャンデー噛み舐めて

百合におう職場の汗は手もて拭く

蝙蝠仰ぐ善人の腕はばたきて

こがね虫闇より来り蚊帳つかむ

黒みつつ充実しつつ向日葵立つ

雷つつむ雲や金魚の水重し

見おろしの樗を透きて裸童女

土用波地ひびき干飯少しばかり

入道雲あまたを友に職場の汗

崖下に極暑の息を唸り吐く

麦飯に拳に金の西日射す

木の無花果食うや天雷遠き間に

電工の登り切つたる鰯雲

秋風の屋根に生き身の猫一匹

実ばかりの朝顔おのれ巻きさがる

土用波へ腹の底より牛の声

家中を浄む西日の隅にいる

夕雲をつかみ歩きて蜘蛛定まる

蚊帳出でて蚊の密集の声に入る

旅毎日芙蓉が落ちし紅き音

雲いでし満月暗き沖のぞく

菓子を食う月照るいわし雲の下

硝子の窓羽音たしかに露の鳥

恐るる人脅ゆる土に月あまねし

業火降るな今は月光地を平す

姿なく深き水田の稲を刈る

蓮掘りが手もておのれの脚を抜く

冬の蜂病舎の硝子抜けがたし

朝日さす焚火を育て影を育て