魂の一と揺るぎして秋の風 虚子
干してある薪にさす日や秋の風 万太郎
海をみて佇てば海より秋の風 万太郎
秋風や面にあたる船の笛 汀女
秋風の衝にありてぞ吹かれたる 草田男
壁越しに病問ひあふ秋の風 楸邨
秋風の鬚ばりばりと噛みて病む 楸邨
秋風に鏡台もなく住みゐたり 波津女
海水劫散りし貝殻秋風に 綾子
秋の風箸おきて妻何を泣くや 敦
秋風に木々の透間の見えそめし 虚子
秋風は身辺にはた遠き木に 風生
吊橋や百歩の宙の秋の風 秋櫻子
流行歌詞身に覚えなく秋の風 草田男
ラヂオつと消され秋風残りけり 立子
通勤の首を扼しては秋風 静塔
秋風が砂吹きよせる鉄鎖かな 綾子
臥て読む劇病廊行けば秋の風 波郷
秋風に筝をよこたふ戦経て 多佳子
秋風や船の炊ぎも陸の火も 汀女
秋風の一刷したる草木かな 虚子
我袖も木の葉もそよぎ秋の風 虚子
秋風に庭の大木我隠れ 虚子
あきかぜの猫のかうばこつくりたる 万太郎
秋風やわすれてならぬ名を忘れ 万太郎
あきかぜのふきぬけてゆく憎さかな 万太郎
北浜は沸けど橋上秋の風 青畝
胸の書が音してひらく秋の風 楸邨
石に来て秋風の音遠くなりぬ 楸邨
秋風の油虹なす雄物川 楸邨
秋風や石の割目が水に透き 楸邨
秋風の伊丹古町今通る 虚子
白樺の白は手に附く秋の風 たかし
秋風のわが身ひとつの句なりけり 敦
あきかぜや人形とてなき目鼻立 万太郎
みづひきの朱ヶ日に透けり秋の風 万太郎
素朴なる卓に秋風の聖書あり 秋櫻子
秋風や跪坐の台置く椅子の前 秋櫻子
秋風に曲げて髪結ふ肘二つ 不死男
秋風の屋根に生き身の猫一匹 三鬼
石に来て秋風の音遠くなりぬ 楸邨
秋の風釜を夕日に向けて磨ぐ 楸邨
網を煮る釜火燃えたつ秋の風 たかし
軍楽をはやはばからず秋の風 波郷
秋風の廃石階にわが座あり 波郷
秋風に息こそあへげ化粧坂 波郷
百姓が知りはじめたる秋の風 龍太