和歌と俳句

中村草田男

銀河依然

十一

花合歓や時よりこまかきものに砂

合歓の梢砂あがき出て花咲かす

花合歓のしめりや指のしめり程

昼顔や我が荷も添ひて友の肩

妻遠し合歓咲き船には艪が二本

麦秋や口につきたる土の味

道行くや昼寝の家へ墓地の風

冬至粥いかなる春の遠からじぞ

吾子達の齢は朝や蝸牛

学荒ぶヒマラヤシーダへ藪からし

青蔦やあまりひしひし妻の加護

老といふ概念もあり薔薇もあり

桐一葉遥か遥かを知人過ぐ

秋風の衝にありてぞ吹かれたる

朝顔煤煙密室とどろダンス館

林檎掻き出し掻きだし尽きし其籾殻

睡蓮や死ならぬもの以て肉浄めよ

杖に縋る左手や右手に種を蒔く

母が家ちかく便意もうれし花茶垣

われに薔薇山羊には崖を与ふべし

食は腹に落ちゆき冬雲厚くなれり

唐辛子男児の傷結ひて放つ

ことのはは終わりぬ聖樹灯りけり

前途永き妻に加護あれ降誕祭