縁側に副ひて馬の背夕の梅
花桃の前に貸したる夫の智慧
連翹の一度び光浴び切りに
陽炎や声誉と成就まぎれがち
耕す息吹き農婦の舌は厚く素し
いくさよあるな麦生に金貨天降るとも
濡縄に牽かれ春雨日本犬
緑蔭の言葉や熱せずあたたかく
春の愚者奇妙な賢者の墓を訪ふ
切株しめり蘖に玉通り雨
蘖や涙に古き涙なし
浮浪児昼寝す「なんでもいいやい知らねえやい」
昼寝孤児佇つ吾は定評つめたき人
母姉の祷りの前を手毬の子
流行歌詞身に覚えなく秋の風
山霧やひんがしの方はほのぬくし
大緑蔭中に碑巌は根を下ろす
碑巌の上に下枝太さや蝉の昼
眼つりし野分の芭蕉いまの蝉
ほととぎす問ひ問ふ「こころ荒れたか」と
萼よりはずし掌にのせ山苺
朝の郭公砂の轍のまだ崩えず
帰省子のせて午前十時の馬戻る
頭伏せし蜥蜴と聴けり日の言葉