和歌と俳句

中村草田男

銀河依然

十一

縁側に副ひて馬の背夕の

花桃の前に貸したる夫の智慧

連翹の一度び光浴び切りに

陽炎や声誉と成就まぎれがち

耕す息吹き農婦の舌は厚く素し

いくさよあるな麦生に金貨天降るとも

濡縄に牽かれ春雨日本犬

緑蔭の言葉や熱せずあたたかく

春の愚者奇妙な賢者の墓を訪ふ

切株しめり蘖に玉通り雨

蘖や涙に古き涙なし

浮浪児昼寝す「なんでもいいやい知らねえやい」

昼寝孤児佇つ吾は定評つめたき人

母姉の祷りの前を手毬の子

流行歌詞身に覚えなく秋の風

山霧やひんがしの方はほのぬくし

大緑蔭中に碑巌は根を下ろす

碑巌の上に下枝太さや蝉の昼

眼つりし野分の芭蕉いまの蝉

ほととぎす問ひ問ふ「こころ荒れたか」と

萼よりはずし掌にのせ山苺

朝の郭公砂の轍のまだ崩えず

帰省子のせて午前十時の馬戻る

頭伏せし蜥蜴と聴けり日の言葉