五十路またよきぞと唱へ宵踊り
いつせいに手あげて踊りの身が細る
踊るらめ女泣かせぬ世の来るまで
広きへ行かん鉢窪ふかき麦藁帽
一隅の夏釣人のまばたきなど
赤児さめし右車窓より夏暁くる
光太郎住む山かけて芒出穂
晩夏シグナル高し渋民村低し
二分停車好摩ケ原は木露降る
みちのくの一宿晩夏の合歓の辺に
象潟のはせをの合歓も晩夏の合歓
雨蛙緯度北よりの空へ鳴く
まこと裸の声みちのくの雨蛙
道と渓流蝉声も亦蜿蜒と
岩々すずし水の本道間道奔せ
屈竟の橡の実つかむや水去来
底沙すずし潜ぐれど見ゆる鳰一つ
山湖澄む風にゆかりのなき葉月
この湖に想羽冷えて夏の鴛鴦
夏の鴛鴦寂びつかれたる木が倒れ
倒れ木の夏鷹の尾の湖に触れ
鴛鴦の湖二つづつ出て夏星満つ
櫂えお湖舟に措きすつる音天の川
湖上銀河箒の影のある障子
残暑の墓老男老女遠拝み
きりぎりす同音重ね桂月調