和歌と俳句

中村草田男

銀河依然

十一

みちのくの晩夏描くを旅人見る

夫が落す語を妻拾ひ夏野行く

西日の馬をしやくるな馬の首千切れる

津軽の西日ここ先途なき流行歌

野は林檎町はあかあか晩鴉に満つ

残光になほ舞ふ鳶や洗ひ馬

津軽人土切る音す昼の虫

梯子の裾に腰かけ仰ぐ旅の

青年は日向でいこふ道をしへ

道をしへ先達けふも下駄ばきに

昼の酔津軽の稲風稲ゆする

薊と小店太宰の故郷へ別れ道

太宰の通ひ路稲田の遠さ雲の丈

風の凌霄ここの覧きれいな岩木山

遠景消えて林檎の苑の中に泰し

遺影の頭僧より魁偉供華秋草

松山野菊多きや然よ今こそ

覇王樹立ち夕蟹走りわれ生れし

金剛茅舎朴散れば今も可哀さう

開くとき光りぬ冬の昼花火

藪の気を吸ひつつ背は日向ぼこ

雲の峰縦向きに魚ならべたり

雲台に三日月地上に何置かるる

雪虫や高さの重さに堪へ得ずに

冬日一輪をりをり光あらたにす