朝の柿潮のごとく朱が満ち来
壁越しに病問ひあふ秋の風
白菊のもはや昏れざるまで昏れぬ
蜩のさびしくなりて「もういいか」
柿の朱に亡びざるもの何々ぞ
乳児のねむり落下のごとし露の中
あきらめて鰤のごとくに横たはる
一人づつそしり林檎は食ひ足らぬか
高熱の視野まつさをに冬の竹
木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ
来ては去る枯木枯木や咳の中
いくたびか寝てさめてまた冬の天
貨車押して片目は枯野見つつあり
こがらしや女は抱く胸をもつ
寒卵のみくだす感極まりて
紙屑をすてて枯野をひからしむ
臥つつおもふ宗谷の果の冬の梁
はるかなこゑ「茶の花がもう咲いてます」
今もなほ骨還りつく枯葎
茶の花に灯るいつかは還りこむ
除夜の鐘の前か後かに雨をきけり