和歌と俳句

加藤楸邨

元旦の爪だつ素足見てさめき

青くさびしく望遠鏡裡冬の天

二つ三つ林檎ころがし「臥てゐろよ」

枯野起伏明日といふ語のかなしさよ

乳児の黒瞳さめて見てゐる牡丹雪

霜夜子は泣く父母よりはるかなものを呼び

子の脚がはねがはね視野ゆたか

また夢に入り来ての街の角

鉛筆書きの濃く淡く冬嶺濃く淡く

疲れ寝の妻の手うごく冬畳

牛の鼻吹雪へ吹雪へ押し出され

喘ぐ牛の重さがに印せしあと

寒鯉を剖くや刃づたふ重き力

水のんできて雪嶺の濃くなりぬ

冬鵙へはがねのごとく病めるなり

こがらしやしかとくひあふ連結器

遥かなるかな雪夜明りの書を出でて

鵙の貌の出てきさうなる冬芽かな

寒明けの臥てあやす子は胸の上

猫が嗅ぐ寝かへる鼻の春寒

ゆく雁や焦土が負へる日本の名