和歌と俳句

加藤楸邨

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一本の鶏頭燃えて戦終る

富士のすでに八方露に伏す

わが家なきの大地ぞよこたはる

稲妻へ歩を向けしかば藷重たし

飢せまる日もかぎりなき帰燕かな

明日いかに焦土の野分起伏せり

昨日見てけふ曼珠沙華みあたらず

曼珠沙華最も遠く思ひ出す

はからずもこの朝焼の雁のこゑ

信濃より藷さげてきし手の霜焼

蛍草見て立ちにけり戦了る

萱の穂の稚き月を眉の上

秋の風海旋車は燃ゆることもなし

九十九里の一天曇り曼珠沙華

蝸牛と秩父にをるや秋の暮

まづ覚めし蜻蛉に朝日さしにけり

唐辛子わすれてゐたるひとつかな

生きのこりゐて甘き秩父かな

破蓮や釣れてたのしき顔ならず

家なくてこの秋の虹高かりき

飢きざす鶏頭の丹を見たるとき

師走八日の葱真青に明けきたる

冬雁やいまだかへらぬ人の上

闇市の冬三日月にあひにけり

氷らんとまつすぐに畦鳴りにけり

やかぎりしられぬ星の数

飴なめて流離悴むこともなし

木枯の底に仰ぐや狼座

柚子照りて牛の鼻よりしぐれけり