和歌と俳句

加藤楸邨

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一椀のの粥にかへりきぬ

薔薇の花さわがしきわが影が過ぐ

蟇の目に見られてゐしや飢餓地獄

羽蟻たつ悲運は一人のみならず

つまづきて見しは牡丹のくもりかな

黒南風にのりてぞひとの還りける

飢餓地獄夏の障子のましろきを

俤は笑顔ばかりぞ夕焼け

白南風の牛はさびしき眼せる

麦殻を焚く火か否か伊豆に入る

青葉木莵霧ふらぬ木はなかりけり

梅雨雲のねがへばともるところかな

初鰹彼奴等と呼ばれつつも買ふ

雨霧の夜やひたのぼる鮎ならむ

梅雨の月明日食ふ米を問ひてねむる

紫陽花の咲けば咲かねば悔ひとつ

腹むなしグラジオラスは咲きのぼり

夕焼や忘れてをれば蟻の列

白芥子のはなびら暮れてさだまりき

一握の米をたのみや梅雨の月

闇市や梅雨夕焼に貫かれ

更衣豆腹の豆負ひかへり

蟇のこしてここも追はるるか

家去れといはるる梅雨の月の中

炎天にあるきだしをり舌出して