一椀の藜の粥にかへりきぬ
薔薇の花さわがしきわが影が過ぐ
蟇の目に見られてゐしや飢餓地獄
羽蟻たつ悲運は一人のみならず
つまづきて見しは牡丹のくもりかな
黒南風にのりてぞひとの還りける
飢餓地獄夏の障子のましろきを
俤は笑顔ばかりぞ夕焼けぬ
白南風の牛はさびしき眼せる
麦殻を焚く火か否か伊豆に入る
青葉木莵霧ふらぬ木はなかりけり
梅雨雲のねがへばともるところかな
初鰹彼奴等と呼ばれつつも買ふ
雨霧の夜やひたのぼる鮎ならむ
梅雨の月明日食ふ米を問ひてねむる
紫陽花の咲けば咲かねば悔ひとつ
腹むなしグラジオラスは咲きのぼり
夕焼や忘れてをれば蟻の列
白芥子のはなびら暮れてさだまりき
一握の米をたのみや梅雨の月
闇市や梅雨夕焼に貫かれ
更衣豆腹の豆負ひかへり
蟇のこしてここも追はるるか
家去れといはるる梅雨の月の中
炎天にあるきだしをり舌出して