汗拭いて何に怒らん腹減りぬ
汗の目のくぼみて子等も飢ゑんとす
菖蒲葺くこともわすれてゐしものか
焼けざりし夏帽の黴をあはれみき
兜虫白雲玻璃の外をゆく
蛍草そのやさしさへ歩みをり
飢うづく日も青竹は真青に
雲はみな動きめぐるや更衣
踏み落す蚊帳をまた吊り笑ふなり
灯ともせば玻璃かきむしり兜虫
雲の峯けふの昼餉もこんにやくか
白服のめだつ汚れや才ありて
蜩や水底に畦澄むが見ゆ
蜩や手にふりすつる帽の露
思ひ出のひとつふたつは月見草
夫が挽き新妻が煮て新豆腐
雲の峯のしかかりたる遺骨かな
海峡の夏潮はやし遺骨を据ゑ
雲の峯ふるさとに待つものなし
額の花簾の裾を足袋の白
おのれ吐く雲と灼けをり駒ケ嶽
蝉とんで火山灰地の灼けたる石
蜩や汽車まはりゆく駒ケ嶽
蜩のマツカリ岳を目にさめき
茄子漬や雲ゆたかにて噴火湾
アカシヤの幹に触れ虫を売るに立つ