和歌と俳句

加藤楸邨

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拭いて何に怒らん腹減りぬ

の目のくぼみて子等も飢ゑんとす

菖蒲葺くこともわすれてゐしものか

焼けざりし夏帽の黴をあはれみき

兜虫白雲玻璃の外をゆく

蛍草そのやさしさへ歩みをり

飢うづく日も青竹は真青に

雲はみな動きめぐるや更衣

踏み落す蚊帳をまた吊り笑ふなり

灯ともせば玻璃かきむしり兜虫

雲の峯けふの昼餉もこんにやくか

白服のめだつ汚れや才ありて

や水底に畦澄むが見ゆ

蜩や手にふりすつる帽の露

思ひ出のひとつふたつは月見草

夫が挽き新妻が煮て新豆腐

雲の峯のしかかりたる遺骨かな

海峡の夏潮はやし遺骨を据ゑ

雲の峯ふるさとに待つものなし

額の花簾の裾を足袋の白

おのれ吐く雲と灼けをり駒ケ嶽

とんで火山灰地の灼けたる石

蜩や汽車まはりゆく駒ケ嶽

のマツカリ岳を目にさめき

茄子漬や雲ゆたかにて噴火湾

アカシヤの幹に触れ虫を売るに立つ