和歌と俳句

加藤楸邨

原爆図真の冬日か野にあるは

壁に対へば冬まぼろしの原爆図

冬鵙や胸底におく原爆図

原爆図唖々と口あく寒鴉

原爆図さむし母乳をまさぐる指

馬が目をひらいてゐたり雪夜にて

燦爛と起重機上に白息す

登呂春寒生きたる声の小学生

燭春寒炎の中に炎立つ

乳児の声の中よりほとばしる

黴に読みゆきつひにモーゼは荒野に死ぬ

の穂咽喉の奥うつごぼごぼと

鍋釜を噴かせ月の句成るところ

塩田夫たる一代の日焼の脛

首出せば月が来てをり蚊帳の穴

肩だこを撫でて温泉にをり炭負は

胡桃焼くや玻璃に音なき雪の国

冬夜霧声がまづ来て友が来ぬ

胸はりて我にものいふ枯野の子

土筆なつかし一銭玉の生きゐし日

春富士や仁丹の香が口に充つ

犬の背で濡手拭ひて茄子を買ふ

人がまねし仏法僧の僧は濁る

落葉地にとどくや時間ゆるみけり

子が嫁ぎ末枯れの天ひろくなりぬ