和歌と俳句

加藤楸邨

改札に万才酔ひて叱られをり

山繭の青の深さよ雪二度目

冬の泥鰌をはなれし泡や星に逢ふ

鶏百羽一羽ころげし青嵐

虹鱒の虹のごときをひと代追ふ

花を拾へばはなびらとなり沙羅双樹

蝙蝠の雛が落ちしと泣き仁王

労働祭パンジーの目が地より湧き

路次没日秋刀魚見せあふ主婦ふたり

霧ははれゆくもう見えるものしか見えず

曼珠沙華もう数へねば花消えよ

大枯野牛あらはれて完成す

まぼろしの鹿はしぐるるばかりかな

山刀伐に虹かかれよと虹の橋

死ににゆく猫に真青の薄原

冬鵙よその知らぬ世に我等棲み

絶巓たしかに霧中の実在それにむかふ

カフカ去れ一茶は来れおでん酒

子に来るもの我にもう来ず初暦

牡丹来て妻の目にあれ手術前

鶴の毛は鳴るか鳴らぬか青あらし

紅き蟹見えざる海に向きて駈け

蟻のゆくてに蟻がゐるらし見えねども

雑巾となるまではわが古浴衣