和歌と俳句

加藤楸邨

啖ふとほとばしるなり伊賀訛

セーターに枯葉一片旅さむし

大根を洗ひひからす飛鳥川

秋耕や牛のふぐりはきらきらと

弥陀の前秋風の軍鶏首を立つ

秋刀魚括りて百姓歩きの前のめり

晩稲刈られてしづかなるかな出羽境

残る虫耳あて聴くや関の石に

ゐのこづち剥いでは畳に並べゆく

蜻蛉先立て山刀伐峠今越えゆく

大き枯野に死は一点の赤とんぼ

芒原芭蕉の径の見えつ消えつ

最上川につつこみ青菜振り洗ふ

秋の雲父の墓なき父の国に

巻きそびれたる甘藍は北風まかせ

きらりきらりと峡の索道葱を運ぶ

膳椀躍る冬山水の洗ひ場は

授業始まる八丁峠の斑雪に向き

枯山の傷すさまじき露天掘

葱の芽の毛ほどの青さ守り育て

冬鬱たる麦をわが目に印し置く

胸毛そよいで天津畷の寒雀

牡蠣を剥くをりをり女同士の目

北風吹く窓黒牛の胴きてかがやく

伊良湖岬吹かれて冬の髪膚乾く