蟹の視野いつさい氷る青ならむ
猫の恋声まねおれば切なくなる
語りつつ睫毛の雪を吹きて消す
寒卵どの曲線のかへりくる
夜空蒼しひとりごと言ひ卒業す
レモン春寒箇々の拒絶の充実す
笹鳴や我れはひと代を火炎上
絹の上蟻は響きを持たざりき
西瓜割る亡き子いつでも駈けてをり
蟻がくふ蛾がきらきらと円覚寺
火事終へてあるきゐたりし兜虫
寒卵の無限同型がふとさびし
巻尺ひとつほぐれおどれり冬畳
撃たれたる雉子の目一瞬何を見し
猫が舐むる受験勉強の子のてのひら
踏まば消えん幼な陽炎見て妻へ
妻のいかり剥く唐黍はきゆきゆきゆきゆと
蝶踏んで身の匂はずや不破の関
消ゆる線のみ月下美人の花けぶる
蟋蟀や頭上いつさい責め言葉
海鼠噛む真顔のときのすさまじき
象はあそべり真にあそべる寒雀
河豚食つて戻りし目鼻ながめらる
うまづらかははぎ長き泣顔いかにせん
大鴉凍てし仏頭をつかみをり