和歌と俳句

加藤楸邨

初鶏のはるかなひとつ亡き子あそぶ

似てゐるさびしさ兜虫ふたつゆき逢へり

時計見て看護婦踊より脱けてゆく

晩稲刈一純粋が野川なす

酔ひし日は睫毛に触れし天の川

たのしきらし我への賀状妻が読み

若き元日易々として死を口にせる

花の奥より蕾駈け出づ桜草

降り積むごとき睡りは来ずや牡丹雪

ふるさくら鶏はくるりと頸まはる

あづさと名づく目に雪代の梓川

はなびら無限夢また無限薔薇枕

真木にこもりて飛騨谷は今雪解どき

短夜の汝が描きし樹々は立つ

梅雨に亡し信濃訛の大きな耳

骨切る日青の進行木々に満ち

五十年負ひ来し夏天下の一骨片

月さしてゐてわが手足なりしかな

鰯雲鼻の孤独の極まるなり

鼻さむし遺書とならざりし書を読めば

男が居ればすぐかはる声月をいふ

霧さむき月山なめこ食ひ惜しむ

柚子匂ふすぐそこの死に目ひらけば

鮟鱇の髭もて持たれ値ぎらるる

鰤が人より美しかりき暮の町