和歌と俳句

秋元不死男

胃酸買ひ帰る脊に鳴る高射砲

空襲の月夜の潮がひいてゐる

朝顔に襁褓滴たり路次の天

秋暑しつとめのバスに恋つのり

笑はぬ日秋の酒飲む地下室に

稲妻やつとめの鞄見し忿り

虫鳴く音妻子の寝顔孤り独り

嫁がぬひとに虚無の弁あり秋樹帯

秋晴や囚徒殴たるる遠くの音

鳴く蟲や妻子と棲まば獄如何に

獄窓に掬ふ秋風とて細し

獄なれや掃きよせ拾ふ木の葉髪

独房に釦おとして秋終る

鳥わたるこきこきこきと缶切れば

草を吹き鉄管に入る秋の風

今日ありて銀河をくぐりわかれけり

蔦巻く家へ悲劇の方へ一歩づつ

小石もて高架摺り行く秋新た

子の髪油つけてはたらく子規忌なり

案山子より詩を貰ひては鉛筆舐む

硯洗ひ野分の端に波郷病む

秋風に曲げて髪結ふ肘二つ

歯を借りて繃帯むすぶ子規忌かな

秋黒し昏れて単線の踏切