和歌と俳句

秋元不死男

家の妻瞳に描きがたし青き踏む

木木芽ぶく銀行に銀貨こぼれる音

交換手木の芽の朝を帰るなる

厨房に貝があるくよ雛祭

老いし人多し生活の海苔を干す

起きんとす海苔採りの法螺吹き渡り

浅蜊ほる母とほし白帆母の脊に

母美しとほき干潟にゐてひかり

高階に人らゐて食ひ散らす花ぐもり

高階の歯科に子が泣く花ぐもり

深く深く組ませし母の荒れし手よ

隠すなき裸身の母をわが拭く手

仏の母に春暁の彩短かかりき

獄に棲み鋲のごとしや下萌ゆる

花散ると子の文短か獄にくる

分け入りて木の芽の捕虜となるばかり

蠅生れ早や遁走の翅使ふ

春濤をのぞく絶壁に誘はれ

に雨刺の鉄柵隔てたり

勇気こそ欲し今日以後を飛ぶ