家の妻瞳に描きがたし青き踏む
木木芽ぶく銀行に銀貨こぼれる音
交換手木の芽の朝を帰るなる
厨房に貝があるくよ雛祭
老いし人多し生活の海苔を干す
起きんとす海苔採りの法螺吹き渡り
浅蜊ほる母とほし白帆母の脊に
母美しとほき干潟にゐてひかり
高階に人らゐて食ひ散らす花ぐもり
高階の歯科に子が泣く花ぐもり
深く深く組ませし母の荒れし手よ
隠すなき裸身の母をわが拭く手
仏の母に春暁の彩短かかりき
獄に棲み鋲のごとしや下萌ゆる
花散ると子の文短か獄にくる
分け入りて木の芽の捕虜となるばかり
蠅生れ早や遁走の翅使ふ
春濤をのぞく絶壁に誘はれ
菫に雨刺の鉄柵隔てたり
勇気こそ欲し今日以後を飛ぶ燕