野を焼いて補遺の堤へ火を移す
麦踏みに隔世の顔なかりけり
どうどうと雪解に借りし詫ことば
剃刀に充電二月終りけり
妻も憂し胸襟ひらく干鰈
紅梅や露伴も稿を急かれしや
ぜんまいが疑問符つくる島の道
苦節には十年は足らず冴返る
春鮒に沼の齢を尋ねけり
釣橋に椿を持ちしわが重み
こころにも影落しゆくつばくらめ
母の日の長湯や存と亡うつつ
わが翁眉を手草に東風の中
跫音のいづくへ去りし雛納め
故友みな目を開きをり春の星
雨性の母の忌日の花の雨
田に付けて遠き櫻の花唇かな
山吹や酒断ちの日のつづきをり
紅梅や句集出しても出さいでも
わが立てば病壁垂るる花ぐもり
かく痩せて脛おもしろや春の雷
あたたかや起立助ける妻の肩
世は櫻そろりそろりと進む足
春惜しむ白鳥の如き洩瓶持ち
床ずれや天に寝返るつばくらめ