和歌と俳句

秋元不死男

吐息かけて眼鏡を拭ふ帰雁かな

新墾やどこへも行かぬ蛙の声

点の目の白魚に任す旅愁かな

椿落ちてころがる暗き机の下

金欲しくなくなる帰路に豆の花

春昼や栓撥ねて鳴る魔法壜

稿疲れ尾振りも聡き田鋤牛

立春のどこも動かず仔鹿立つ

ひとり寝の赤子見下ろす春蚊かな

何か曳き春の蚊飛べり三鬼亡し

山吹や燃えて煙吐く薪の尻

紙雛をことりと祭る海女もがな

声立てぬ赤子の欠伸雁帰る

語尾を引くアーメン椿落ちさうに

沼に沿ひ杖を漕ぎゆく彼岸

不離不即耕人耕馬ばらばらに

埃空九段の上に三鬼の忌

パンジー買ふ埃の街の西東忌

一攫のの暗きいのち買ふ

母の忌や椿を鹿の拾ひ食ひ

春陰の髯の武将に礼忘る

林泉に蝌蚪大群の声沈む