吐息かけて眼鏡を拭ふ帰雁かな
新墾やどこへも行かぬ蛙の声
点の目の白魚に任す旅愁かな
椿落ちてころがる暗き机の下
金欲しくなくなる帰路に豆の花
春昼や栓撥ねて鳴る魔法壜
稿疲れ尾振りも聡き田鋤牛
立春のどこも動かず仔鹿立つ
ひとり寝の赤子見下ろす春蚊かな
何か曳き春の蚊飛べり三鬼亡し
山吹や燃えて煙吐く薪の尻
紙雛をことりと祭る海女もがな
声立てぬ赤子の欠伸雁帰る
語尾を引くアーメン椿落ちさうに
沼に沿ひ杖を漕ぎゆく彼岸婆
不離不即耕人耕馬ばらばらに
埃空九段の上に三鬼の忌
パンジー買ふ埃の街の西東忌
一攫の蜆の暗きいのち買ふ
母の忌や椿を鹿の拾ひ食ひ
春陰の髯の武将に礼忘る
林泉に蝌蚪大群の声沈む