和歌と俳句

雛祭

紙折つて雛のあられを其上に 虚子<

雛あられ染める染粉は町で買ひ 虚子

色紙なる繪雛の袖のはね上り 虚子

美しきぬるき炬燵や雛の間 虚子

手を伸べて座に着けまつる内裏雛 波津女

雛の間を夜に通りけりただ暗く 波津女

ひと寝ねずけり雛の間となりてより 波津女

山里の雛の花は猫柳 虚子

お茶うけの雛のあられに貝杓子 虚子

天井にとどけ雛の高御座 虚子

カレンダーめくりあらはる雛の日 虚子

旅びとののぞきてゆける雛かな 万太郎

山に日のあたり来れり雛の宿 万太郎

雛の灯や憂ひなかりし日のことなど 信子

雛の灯に近く独りの影法師 信子

雛の日の哀愁いつの年よりか 信子

わが憂ひつゝむに馴れて雛まつる 信子

雪やみし日のさしてくる雛かな 万太郎

鎌倉の松風さむき雛かな 万太郎

何といふ雛よと問はれ桃山と 立子

夜半の雛肋剖きても吾死なじ 波郷

雛祭る心は外の面見ることか 石鼎

雛納めしつつ外面は嵐かな 虚子

雨のふる日のおちつきや雛納 万太郎

雛納菜の花の黄のひかりかな 万太郎

目にみえて柳青めり雛納 万太郎

黛のにほひ描かれし雛かな 青畝

埴土山姫埴土姫と雛祭り 石鼎

絵雛かけし壁をそのままくらがりに 多佳子

彼の雛の思ひ出追ふも悲しけれ 立子

あかあかと雛栄ゆれども咳地獄 波郷

爛淀の梅ばかりなる雛の日 石鼎

梅が香の霞むほどなる雛まつり 石鼎

かまくらのとしまやの雛あられかな 万太郎

雛あられ両手にうけてこぼしけり 万太郎

雛あられ乏しく青を點じけり 万太郎

月みよや桃の節句のゆふぐれの 万太郎

雛の夜は雛に仕へて老いざりき 鷹女

波の底衣紋をぬぎし雛をり 青畝

流し雛日本の国の磯を去らぬ 青畝

雛飾りつゝふと命惜しきかな 立子