和歌と俳句

久保田万太郎

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雪よふれかしつもれかし実朝忌

雛あられ乏しく青を點じけり

月みよや桃の節句のゆふぐれの

ばか、はしら、かき、はまぐりや春の雪

あひともにかちわたらむよ春の水

蜆汁飽きずに雪の降ることよ

布さらす春の川みえ離宮みえ

桂領桂河原のかな

佇めば水ひろびろとまづ霞み

つみ草やおえんまさまの門のまへ

よろこびのかなしみのつくつくしかな

わらづかのかげにみつけしすみれかな

春昼や老木の幹の苔じめり

仰山に猫ゐやはるわ春灯

またたきやおぼろ哀しきかいともし

世も明治人も明治のさくらかな

としまやの瓦せんべい花の雨

しばらくは花のふぶくにまかせけり

汐干貝いまもむかしもなかりけり

笛の音にこめたる春のうれひかな

すでに花うしなへり雲しろく

芍薬のつぼみのかたき暮春かな

枯笹に風鳴るばかり二月かな

大船の戸塚の不二の二月かな

春寒の灰になじまぬ火なりけり