和歌と俳句

久保田万太郎

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

初午や雪をのせたる四方の屋根

初午の藪の下みちくらきかな

雲一つなくてまばゆき雪解かな

干柿のなまなかあまき餘寒かな

ぜいたくは今夜かぎりの春炬燵

きのふにもいまごろありし雲雀かな

あかつきの靄にぬれたる椿かな

げんげ田のうつくしき旅つづけけり

石段をみ上げても日の永きかな

春の月さし入る門をひらきけり

たをやかにゆるる枝あるかな

シクラメン花のうれひを葉にわかち

残雪のぬれぼとけみえ人出みえ

海苔あぶりながら話のつづきかな

塔の屋根青き三月来りけり

落椿足のふみどのなかりけり

目のまへの山の雪はも土筆つむ

木蓮のみえて隣のとほきかな

連翹のうす黄のさそふなみだかな

夕空にたかだか映ゆるかな

花曇かるく一ぜん食べにけり

山吹も葉がちの雨となりにけり

葛飾の春ゆくことの迅きかな

風立ちてくるわりなさや春の暮

大事とる話ばかりや暮の春