和歌と俳句

久保田万太郎

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さる方にさる人すめるおぼろかな

かんざしの金脚ひかるおぼろかな

おぼろ夜のいとしきものや土瓶敷

花咲いて竹の葉風の寒からず

花の雨浪花やすでにともりをり

咲く花に散る花にいのちまかせたる

雀堂落花の風のなかにかな

花人のおかる勘平をどりをり

花人のぬぎちらしたる草履かな

花人のしやつくりとまりかねしかな

花疲れみかんをむいてゐたりけり

賽銭の落つるひびきや花ぐもり

露地のまた露地の奥なり花曇

仲見世で買ひきしものやさ櫻漬

さくら湯やをりをり軒の雪しづく

きさらぎの口紅すこし濃かりけり

春水のあるひはながれいそぎけり

うららかに汗かく耳のうしろかな

わがうれひ鶯もちの青きにも

春浅きものまはりをり水車

またもとの土手にいでたる梅見かな

咲きすぎしたそがるる白さかな

東京の中の葛西の春田かな

ぬかるみをよけてあるくや紅椿

永き日や大き火鉢の中の灰