和歌と俳句

久保田万太郎

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入学のはかま瀧縞敵役

入学の房のつきたる帽子かな

入学や草履ぶくろの花模様

長唄のおしよさんの子入学す

入学の子の胸高にはく袴

夕靄におぼれて白きさくらかな

杉林のしかかりをり花ぐもり

つぎかへてまた冷えし茶や花曇

くたびれて来てたたみけり春日傘

二人づつ三人づつ連れ春日傘

雨ふるとのみおもほへる朝寝かな

何もかもむかしとなりてかぎろへる

春昼のラムプ掃除のおもひでも

落ちあひし筆の穂先や花の雨

花冷えや籠にゐるのはひばりの子

来たことのなきみち落花しろき道

枯桑につばめしきりに光りけり

春暁のもの音きこえそめしかな

花ふかく雲またふかきあたりかな

雪吊のとれたる松や花の雨

鏡台も衣桁も朱に花の雨

花冷えの雨のひときは濡らすもの

はんだいにへちま一つや春の風

いと甘き菓子口に入れ春の風

夕闇にいつまで白き躑躅かな

雨ふくむ風ふきいでし躑躅かな