夜の梅をりから時計鳴りにけり
建増の二階あかるし春の雪
剥きかけしままの蜜柑や春の雪
春雷や芝生につづく海のいろ
春雷や手摺の下のよその庭
行く雁やまたしても建つビルディング
うららかに一年まへを語りけり
木蓮やほこり上げ来る風の中
木蓮や西風強き日のつづきけり
胃潰瘍春の夕のやまひかな
春の夜の肩そびゆるや吉右衛門
春潮の如しや尾上菊五郎
春日傘ゆくや両国橋の上
遅ざくらうつつに色の褪せしかな
さぎむすめ雛の傘をさせるかな
東風強し堀切橋の下の水
東風ふくやいまはむかしのいづもばし
春水にうつりて淋しビルディング
雪どけの都あはれや蜆掻き
いま泣きし泪の味や蜆汁
春泥にうすき月かげさしにけり
蒲公英に妻ありし日をおもひけり
待乳山越え来りさくらもち
まづのどをしめす茶であり櫻餅
古き園に古き月いづ沈丁花