水餅の焦げつく春の立てりけり
爪とりて爪のつめたき二月かな
はつ午や坂にかかりてみゆる海
みゆるときみえわかぬとき星餘寒
一ところ山に雲なき餘寒かな
春時雨しばらく月をはばみけり
掻いくぐるごとく来れり梅の中
梅咲くや小さんといへば三代目
旅びとののぞきてゆける雛かな
山に日のあたり来れり雛の宿
春の雪中入すでにつもりけり
あをぞらの藁屋根ひたす彼岸かな
くもることわすれし空のひばりかな
人はいさ群れとぶ風の燕かな
岸浸す水嵩となりし椿かな
中坂のおもひでともる霞かな
日をつつむ雲いで来し春日かな
ながき日やちる花やどす龍の髭
春暁やいささか長けし松の蕊
春の夜や下げてまづしき灯一つ
春の灯の麦の畑越しみゆるかな
春の月松竝がくれ照るはかな
花のある方へ方へとまがりけり
コート脱ぐ間ももどかしく花に目を
あまぐものまだ退き切らぬ櫻かな
花の句をしるしあまりし句帖かな
ゆく春や風をわすれし松の照り