一葉
行く春を 送るとなしに 旅衣 さそはれてこそ 立そめにけれ
行く春のもたれ心や床柱 子規
行春や心もとなき京便り 虚子
行春や三千の宮女怨あり 虚子
行春や昔男の文のから 虚子
行く春の酒をたまはる陣屋哉 子規
行く春を鉄牛ひとり堅いぞや 漱石
行春や候二十続きけり 漱石
行く春やぼうぼうとして蓬原 子規
行春や瓊觴山を流れ出る 漱石
ゆく春や振分髪も肩過ぎぬ 漱石
行春を尼になるとの便りあり 虚子
行く春を剃り落したる眉青し 漱石
行春や畳んで古き恋衣 虚子
行春や紅さめし衣の裏 漱石
晶子
行く春の 一絃一柱に おもひあり さいへ火かげの わが髪ながき
行春や母が遺愛の筑紫琴 放哉
晶子
ゆく春や 高燈台の むらさきの 灯かげの海に 細き雨ふる
牧水
眼とづれば こころしづかに 音をたてぬ 雲遠見ゆる 行く春のまど
牧水
ゆく春の 月のひかりの さみどりの 遠をさまよふ 悲しき声よ
牧水
ゆく春の 山に明う 雨かぜの みだるるを見て さびしむひとよ
逝く春や庵主の留守の懸瓢 漱石
逝く春やそぞろに捨てし草の庵 漱石
行く春や壁にかたみの水彩画 漱石