火の残る焼野を踏んで戻りけり
雛の灯に油つぎたし遊びけり
山吹に流れよりたる雛かな
もたれあひて倒れずにある雛かな
牡丹餅に夕飯遅き彼岸かな
永き日を遠巻きにする軍かな
永き日の尺を織りたる錦かな
青柳や人出づべくとして門の内
町はづれ花すこしある社かな
金屏におしつけて生けし櫻かな
提灯は恋の辻占夕ざくら
具足櫃に謡本あり花の陣
温泉の村や家ごとに巣くふ燕
去年の巣に燕を待つ酒屋かな
蝶々のもの食ふ音の静かさよ
行春や畳んで古き恋衣
梅林や轟然として夕列車
梅三株漁村を守る社かな
穴を出る蛇を見て居る鴉かな
爐塞の誰まつとしもなき身かな
爐塞いで人にくれたる庵かな
幌馬車は葵の上や春の雨
塊に菫さきたり鍬の上
春潮や巌の上の家二軒
春風や馬を乗せたる貢船