宿借さぬ蠶の村や行きすぎし
逡巡として繭ごもらざる蠶かな
蠶飼ふ麓の村や托鉢す
雨戸たてて遠くなりたる蛙かな
間道の藤多き辺へ出でたりし
年々の見物顔や薪能
薪能もつとも老いし脇師かな
鶯や文字も知らずに歌心
二日灸玉の膚をけがしけり
二日灸旅する足をいたはりぬ
富士浅間二日灸の煙かな
浄瑠璃を讀んで聞かせぬ二日灸
宿直して暁寒し春の雪
摘草に裏戸を出でてつれ立ちぬ
物売りの翁の髷や壬生念仏
春寒き火鉢によるや歌語り
藤壺の猫梨壺に通ひけり
春の夜や机の上の肱まくら
美しき人や蠶飼の玉襷
老若や彼岸詣りの渡し船
春雨や降りこめられし女客
春雨やかけ竝べたる花衣
膚脱いで髪すく庭や木瓜の花
灯ともしに門の行燈や春の宵
大江山花に戻るや小盗人