和歌と俳句

松の花

十かへりのこゑやたえせん松の花 鬼貫

かほる風おくにひかへて松の花 千代女

線香の灰やこぼれて松の花 蕪村

赤彦
よべの雨に小径の石の現れてすがしくもあるか散る松の花

松の花天の橋立風立ちぬ 草城

静かさや松の花ある龍安寺 虚子

憲吉
戸を繰りて間もなき縁におびただし松の花粉の吹きたまりたる

憲吉
うら侘びて我がゐる昨日けふの日も松は花粉をしきりにこぼす

憲吉
鉾池の大松原は息づくか池いちめんに花粉を敷きぬ

漸くに雨あがるらし松の花 青邨

産安の神の御森や松の花 石鼎

塩竃の神へ潮満つ松の花 石鼎

蒼澄める朝の空へ松の芯 三鬼

松の花めでたし敢てかいくぐる 風生

喪章買ふ松の花散るひるさがり 三鬼

松の花葬場の屋根の濡れそぼち 三鬼

松の花柩車の金の暮れのこる 三鬼

眼に見るは松の花のみ地は真砂 秋櫻子

旅路来てをがむみささぎの松の花 秋櫻子

松の花旅ごろも置きて手をきよむ 秋櫻子

日高しやおのづとけぶる松花粉 亞浪

鳥の名をしらねば仰ぎ松の花 楸邨

勢北に栖みて入海松の花 誓子

歳月の流れてけぶる松の花 誓子

草の戸に名刺を貼りて松の花 風生

御陵に松の花粉の雲起る 虚子

幾度か松の花粉の縁を拭く 虚子

松の花きのふはここに潦 誓子

松の花いつしか積る客の靴 普羅

この家とも別れや松の花終る 誓子

煙り散る松の花粉に気を転じ 立子

松の蕊硝子戸みがきたる日かな 槐太

聖歌飢を打ちては戻る松の花 知世子

生きてまた松の花粉に身は塗る 誓子

松の花風は中空のみに吹く 波津女

松の蕊千萬こぞり入院す 波郷

松の蕊かなたに赤しここにし 波郷

松の蕊雨上る妻の来つつあらむ 波郷

吹き散りし松の花粉や拭掃除 立子

松の蕊赤きとき又菌を出す 波郷

松の蕊糸くづつけて立ちて見る 綾子

俤に城の結構松の花 風生

松の花チエホフ訳す山の裾 不死男

日蔭日向に松の花けぶりそむ 誓子

くもりなき魚山のあそび松の花 蛇笏

太子廟松の花粉を漲らし 青畝

端座して四恩を懐ふ松の花 風生

松の花波寄せ返すこゑもなし 秋櫻子

磯鵯の囀りかくす松の花 秋櫻子

芯立てて松は匂へり海昃り 悌二郎

松花粉飛ぶ日は窓も閉ざしけむ 悌二郎

燧灘に朝日さしくる松の芯 悌二郎

松の花さかりて海に長命す 静塔