西東三鬼
爪半月なき手を小公園に垂れ
手品師の指いきいきと地下の街
女学院燈ともり古き鴉達
猶太教寺院の夕さり閑雅なる微熱
ランチタイム禁苑の鶴天に浮き
運転手地に群れタンゴ上階に
ジヤズの階下帽子置場の少女なり
三階へ青きワルツをさかのぼる
肩とがり月夜の蝶と花園に
花園の夜空に黒き鳥翔ける
花園にアダリンの息吐ける朝
喪章買ふ松の花散るひるさがり
松の花葬場の屋根の濡れそぼち
松の花柩車の金の暮れのこる
黒蝶のめぐる銅像夕せまり
銅像の裏には青き童がゐたり
銅像は地平に赤き雷をみる
青き朝少年とほき城をみる
梅を噛む少年の耳透きとほる
手の蛍にほひ少年ねむる昼