白雲の妬心にかくす春日かな
奥山の枯葉しづまる春夕
独活堀りの下り来て時刻たづねけり
春昼や古人のごとく雲を見る
深山藤蔓うちかへし花盛り
雉子啼くや月の輪のごと高嶺雪
霧満ちて春鶯囀のやみにけり
春風に松毬飛ぶや深山径
蕨採りいこへば巌もくぼみけり
奥山の径を横ぎる蕨とり
蕨とる人を眺むる巌の上
萌え出づるヒトリシヅカを此処彼処
松の花いつしか積る客の靴
人声の谺もなくて飛騨雪解
簗かけし岩もかくるる雪解かな
山吹にしぶきたかぶる雪解滝
汽車たつや四方の雪解に谺して
てり返へす峰々の深雪に春日落つ
一抹の雪雲はしる春夕日
熊笹に虫とぶ春の月夜かな
乗鞍のかなた春星かぎりなし
春雪や色濃き杣の雪眼鏡
春雪や神をいさめの赤き幡
雪つけて飛騨の春山南向き
行く春や旅人憩ふ栃のかげ