蕨採りいこへば巌もくぼみけり 普羅
奥山の径を横ぎる蕨とり 普羅
蕨とる人を眺むる巌の上 普羅
家づとにせむも惜しくて初わらび 貞
冗費とも当然とも初わらび買ふ 貞
茂吉
ほそほそし 伊豆の蕨も 楽しかり わが胃の中に 入りをはりけり
茂吉
やまがたの 最上こほりの 金山の 高野蕨も こよなかりけり
茂吉
羽前より 羽後へ越えむと する山の 蕨をつみて われさへや食む
速達で伊勢の蕨が届きけり 草城
有馬路の蕨のみどり手に貰ふ 草城
うぐひすのこゑの沁みたる蕨かな 草城
蕨はややさしき丈を生ひ過ぎし 誓子
この峡に禿のわらび山一つ 爽雨
蕨生ひしたたりたまふ磨崖佛 秋櫻子
いくらでもあるよひとりのわらび採り 多佳子
風吹いて帰路の白道わらび採り 多佳子
木曽馬の牧の跡あり蕨萌ゆ 秋櫻子
蕨萌え山荘稀に開くあり 秋櫻子
霧吹けば拳濡れ立つ山蕨 秋櫻子
蕨折る八十齢の手をのべて 風生
折られたる涙を噴きぬ初わらび 風生
蕨和忘語かなしく口とざす 波郷
山川に洗足の石蕨狩 静塔
空壕に蕨探しのあにいもと 静塔
うぐひすに鳴かれて険し蕨狩 静塔
丁度子の重さ蕨を背に括り 静塔
蕨あり消ゆるさだめの水泡あり 静塔
山吹の花の幔幕蕨狩 静塔
万葉の早蕨摘みて笊に干す 静塔
鳥居立つ蕨も神の草なりき 静塔
天眼に蕨そよげり老婆の目 静塔
早蕨のみどりを小蜘蛛走りけり 林火