和歌と俳句

橋本多佳子

火がついて修二会松明たちまち惨

火の修二会闇に女人を結界して

修二会の闇われ方尺の女座を得て

桟窓格子透きてへだてて修二会女座

火を滴々修二会松明炎えほろぶ

刻みじかし走りて駆けて修二会僧

修二会走る走る女人をおきざりに

飴ふくむつばとくとくと修二会の闇

一睡さめ身が覚めきつて修二会女座

水散華火散華修二会僧たのしや

西天に赫きオリオン修二会後夜

椿華鬘重し花蕊をつらぬきて

落椿くもる地上の今日の紅

二タ雲雀鳴きあふ低き天もたのし

散りづめの桜盲眼もつて生く

嘴こぼる雀の愛語伽藍消え

生きてゆく時の切れ目よ垂りて

静臥の上巣つくり雀しやべりづめ

おとろへて生あざやかや桜八重

蝶蜂の薊静臥の主花として

降る雨が浸まず流れて二月の地

昆虫の肢節焼野の灰ぼこり

土に憩ひ眼にほろがれる野焼黒

恋負け猫ずつぷり濡れて吾に帰る

山中に恋猫のわが猫のこゑ

土筆の頭遠くに人も円光負ふ

近くして静かな修羅場昼山火

北天の春星の粗に北斗の鉾

桜吹雪ござ一枚の上に踊る

疲れ知らぬ韓鼓どどどど桜の山

青き踏む試歩よ大きく輪を描いて

いくらでもあるよひとりのわらび採り

風吹いて帰路の白道わらび採り

誕生仏立つ一本の黒き杭

熱灰の焼野日輪直射して

崖山吹倉暗黒の覗き窓

罪障のごとしその根の落椿

藤の森日曜画家に妻のこゑ

わが頭上無視しての房盗む

盗む樹上少女の細脛よ

女を飾る木よりぬすみし藤をもて

藤盗みし足をぬらして森を出る